京都発!印刷会社が出会った新たな社会共創のかたち ~「京都ふぉんとプロジェクト」の取り組み~
2026/03/30
<目次>
「京都ふぉんとプロジェクト」の取り組み
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メーカー・行政・アカデミア・寺社仏閣など幅広いステークホルダーに、商業印刷から、製品の容器やラベル等の包装資材、Web制作やオウントメディアの運用等デジタルの分野までサービスを企画・提供している、宝グループ傘下のタカラサプライコミュニケーションズ株式会社(以下、TSC)。
これまでも、『人と地球にやさしい印刷』を意識して事業を進めてきた。1990年代から、再生可能な植物由来の油を主体とした“ベジタブルインキ”を使用したり、用紙費用の一部が小児ワクチンや盲導犬育成など人道支援活動への寄付金となる“チャリティペーパー”を紙専門商社と共同開発するなど、環境や社会配慮型の印刷を続けてきた。2000年代以降は、色弱の方にも見やすい配色や支援ツールを提案する“カラーユニバーサルデザイン”への取り組みも推進。近年では「友禅印刷」の普及にも力を入れており、友禅染に使用する糊(バインダー)を活用して、本来なら廃棄されるはずのさまざまな素材をアップサイクルしてインキ化する手法を開発。お香や抹茶、炭などの原料をそのまま印刷したり、香り付きや消臭機能付きなど、新しい価値を付加した印刷を可能にしている。
そんな、「共生」・「共創」・「共働」をモットーに掲げるTSCが新たに始めた取り組みの一つが、「京都ふぉんとプロジェクト」というサステナブルな取り組みだ。まだまだ知名度は低いが、京都・伏見で印刷業を営んできた同社が、地域と共につくりだす同プロジェクトについて紹介する。
印刷会社らしい社会貢献のあり方を模索するなか出会った「シブヤフォント」プロジェクト
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「京都ふぉんとプロジェクト」は、障がい者・障がい者支援事業所・TSCによる共創アートプロジェクトで、2023年4月に活動が始動した。障がいのあるアーティスト(以下、アーティスト)が描いた文字や絵をもとに、TSCのデザインチームがフォント(書体)やパターン(図柄:繰り返し模様)としてデザインデータ化したものが“京都ふぉんと”だ。それらを企業・団体・自治体・個人が商品や販促物に使用すると、障がい者支援事業所を通じて使用料の一部がアーティストへ還元されるという仕組みだ。

同社がこの活動を始めたきっかけは、東京・渋谷発の「シブヤフォント」プロジェクトとの出会いだという。「シブヤフォント」プロジェクトは2016年、東京・渋谷区が“新しい渋谷みやげ”を作るというプロジェクトをきっかけに、区内の障がい者支援事業所と渋谷でデザインを学ぶ学生との協働により誕生した取り組みだ。多様性理解に向け障がい者アートが注目されるようになる一方、目にする機会は展示会の鑑賞など一方通行の関わり方になりやすいという。また、障がいのある人の工賃向上という社会課題もある。
こうした課題を解決するため、障がいのある人が描いた文字・数字や絵をフォントやパターンとしてデザインデータ化し、誰でも気軽に利活用できるようにした。“シブヤフォント”は、渋谷区公認のパブリックデータとして公式サイトで公開されており、渋谷区職員の名刺や庁舎の案内サインをはじめ、雑貨やアパレルなど企業の商品にまで採用の場が広がっている。また、売り上げの一部は障がい者支援事業者に還元され、障がい者の社会参加や経済的自立支援を後押ししている。一般社団法人「シブヤフォント」は、このビジネスモデルを「ご当地フォント」として全国に拡大中で、2026年現在、京都を含む22の地域で活動が展開され、地域ならではのオリジナルフォント(書体)やパターン(図柄)が、地域交流や情報発信の場面でいかされている。京都代表としていち早く手を挙げたTSCがこの「ご当地フォント」に参画し、“京都ふぉんと”は生まれた。
ご近所さんとの共働でプロジェクト始動
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「京都ふぉんとプロジェクト」発足メンバーのひとりであるTSC企画制作部の田中副部長に話を聞いた。
“京都ふぉんと”でつくられた事例の数々

(左)フォント事例:京都済生会病院様100周年ロゴ (右)パターン・フォント事例:コーヒーパッケージ
タカラサプライコミュニケーションズの田中副部長「『シブヤフォント』さんとオンラインで勉強会をさせていただいて、『ご当地フォント』として全国にスキームを広げていく、という話を伺いました。活動内容に共鳴したことはもちろん、京都で印刷業を営んできた当社の本業に近いところでサステナブルかつインクルーシブ(包摂的)な社会づくりに貢献できるのではないか、と強く感じて参画を表明しました。活動は障がい者支援事業所とペアで参加する仕組みなのですが、当時TSCには障がい者支援事業所とのネットワークがほとんどありませんでした。そこで『シブヤフォント』さんに『アトリエやっほぅ!!』さんを紹介していただきました」(田中さん)
「アトリエやっほぅ!!」は、主に自閉症など知的障がいのある方が通い、軽作業や生活スキルの習得などを行う生活介護施設「京都市ふしみ学園」内にあるアトリエである。絵画や織りなどの創作活動を通じて利用者の発達の可能性を広げるための試みで、“京都ふぉんと”の自由なアイデアが生まれる現場でもある。実は、TSCと「アトリエやっほぅ!!」は歩いて10分ほどの“ご近所さん”。だが、この活動を始めるまで互いの存在は知らなかったという。

「アトリエやっほぅ!!」での作画の様子
「『アトリエやっほぅ!!』さんに共働のご相談をしたところ快く『やってみましょう』と言っていただけたことが、『京都ふぉんとプロジェクト』が動き出す大きな一歩でした。現在では『アトリエやっほぅ!!』さんを含め、京都府内5つの障がい者支援事業所、33名の障がいのあるアーティストさんに参加していただいています」(田中さん)
アーティストの個性を「機能するデザイン」に
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フォントは、手書きのアルファベットと数字をベースに構成。パターンは、動植物、季節のイベント、文様など多様で、おおらかなものから緻密なものまで、彩りと個性豊かな作品が並ぶ。仏像や茶摘み、竹林など、「京都らしさ」をモチーフにした作品がある点も特徴のひとつで、4月初旬に10フォント・62パターンのリリースが予定されている。

プロジェクトメンバーとして原画をデータ化するデザインチームの一人、TSC企画制作部の岡本副部長にも話を聞いた。
タカラサプライコミュニケーションズの岡本副部長
「アーティストさんごとに、特性や作風、個性があります。それらを“フォントやパターンとして不特定多数の人に使ってもらえる形”に変換していくのが、“京都ふぉんと”のデザイナーの役割だと考えています。普段行っている商業デザインの仕事と同じように、“機能する形”を意識しながら、アーティストさんの個性をできるだけそのまま生かして落とし込むことを心がけています」(岡本さん)
フォント・パターンの採用実績は、リリース初年度の2024年度(24年4月~25年3月)で13件。コーヒー豆のパッケージ、タクシー会社や病院のロゴ、Webサイトの画像など、採用の場は着実に広がりを見せている。同年度の使用料は89万円で、その半額が施設を通じアーティストに還元され、彼らの社会参加支援に役立てられているという。

パターン・フォント事例:2025年祇園祭 山鉾巡行 手ぬぐい
2025年の夏には、“京都ふぉんと”が祇園祭の手ぬぐいにも採用された。この手ぬぐい、もともとはクライアントのデザインで制作していたものをTSCから「“京都ふぉんと”のパターンでつくってみませんか?」と提案したところ採用に至った。
作品を利用し普及させていくには、活動の存在自体を認知してもらうことが欠かせない。昨年8月の人権強調月間には、京都市東山区役所にて「京都ふぉんと展 in 東山」を開催。会場では、“京都ふぉんと”のフォントやパターンを紹介するパネル展示のほか、採用事例も紹介した。今年2月には、第2弾として新作を含むパネル展示を実施。あわせて、庁舎1階の窓ガラスに掲出する図書館案内サインに、“京都ふぉんと”が採用された。案内サインデザインへの使用は、今回が初めての事例となった。

(左)「京都ふぉんと展 in 東山」の様子 (右)東山区役所庁舎1階 窓ガラスの図書館案内サイン
メンバーは、「活動を一過性のものにはしたくない」との思いから、子供向けSDGsイベントへの出展や小学校の総合学習の授業の講師、地域の集い場など、草の根でも着実に“目に留まる機会”を重ねていくことを意識して普及活動に取り組んでいる。

(左上)京都ふぉんと×さすてな京都コラボイベン ト。親子でクリスマスリースと缶バッジ作りに挑戦する様子 (右)2025年7月 京都市立待鳳小学校での出前授業の様子
「京都ふぉんとプロジェクト」がめざす未来
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最後に、田中さんと岡本さんに今後の展望について聞いた。
「今は京都市内の数施設での取り組みが中心ですが、数年後には、京都府内にまでエリアを広げていきたいですね。フォントやパターンのバリエーションが増えれば、使っていただく企業側の選択肢も広がるから。また、小学校への出前授業やワークショップのような取り組みも増やしていきたい。子どもたちと一緒に描いたものが、“京都ふぉんと”として採用されるような流れができたら、とても素敵だなと思います」(田中さん)
「今はそれぞれのイベントで個別にお会いすることが多くて、プロジェクトに参画する者同士の横の繋がりがあまりありません。参画している施設の方やアーティストさん、支援員さん、“京都ふぉんと”を広報・販促ツール等に採用してくださっている企業の方々が一堂に会する場をつくってみたいです。みんなで集まって、『もっとこんなことをやってみたいね』と話し合える時間が持てたらうれしいです」(岡本さん)
「京都ふぉんとプロジェクト」が、障がいのある人の創造力と可能性を知ってもらい社会参加の機会を後押しするとともに、地域社会と京都を盛りあげる一助となるよう、地道にプロジェクトのパートナーを増やしていきたい、とTSCは意気込む。
記事を読んで活動に興味を持たれた方は、ぜひ一度「京都ふぉんとプロジェクト」のWebサイトをのぞいて欲しい。
(関連リンク)
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京都市ふしみ学園 アトリエやっほぅ!(京都府) | ストーリー | DIVERSITY IN THE ARTS TODAY